
目次
1. はじめに
経営者や経理担当者の中には、毎月の借入返済明細や通帳を見て
「なぜ借入の金利は高いのに、預金の金利はこんなに低いのだろう?」
と疑問に思ったことがある方も多いでしょう。
実際、日本の中小企業が金融機関から借入を行う際の金利と比較して、
普通預金の金利はかなり低い傾向があります。
この「借入金利と預金金利の差」は、単に金融機関の都合だけでなく、
経済構造・金融政策・リスク管理など、複数の要因によって生まれています。
本記事では、この金利差の背景と仕組み、そして経営にどう活かすべきかを、
分かりやすく解説します。
2. 借入金利と預金金利の基本構造
まずは、借入金利と預金金利の定義を整理します。
- 借入金利:会社が金融機関から資金を借りたときに支払う利息の割合
- 預金金利:会社が金融機関に預けた資金に対して受け取る利息の割合
一見すると、同じ「お金の貸し借り」なのに、なぜこんなにも差があるのでしょうか。
その理由を理解するには、金融機関のビジネスモデルから見ていく必要があります。

3. 金融機関のビジネスモデルと金利差
金融機関は「お金を安く仕入れて、高く貸す」ことで利益を得ます。
この利益を**利ざや(スプレッド)**といいます。
例えば、預金金利が0.01%で、貸出金利が2%なら、その差(約1.99%)が金融機関の粗利益となります。
3-1. リスクプレミアムの存在
借入金利には、元本が返済されない可能性(信用リスク)や、
長期間資金を貸し出すことによる不確実性が織り込まれます。
一方、預金は金融機関にとって返済義務がある負債であり、
預金者に返すことが前提のため、リスクはほとんどありません。
そのため、結果として、預金金利は低く抑えられます。
3-2. 運営コストの反映
金融機関は貸出を行う際、審査・契約・担保管理など多くの業務を伴います。
これらのコストは借入金利に上乗せされますが、預金を受け入れる場合は比較的低コストです。
3-3. 金融政策の影響
日本銀行の政策金利が低い状態では、預金金利も低く抑えられます。
一方、借入金利は政策金利に加えて上記のリスクプレミアムやコストが加算されるため、
借入金利と預金金利の差が開きやすくなります。
4. 日本の現状──「超低金利時代」と金利差の固定化
日本では長らく超低金利政策が続いており、信用力や担保条件にもよりますが、
借入金利と融資金利は、200倍以上の金利差が生じる事もあります。
しかし、この差は「金融機関が儲けすぎている」という単純な話ではなく、
- 中小企業融資は返済リスクが相対的に高い
- 長期的な資金拘束が発生する
- 審査・管理コストが高い
といった現実的要因が背景にあります。
5. 金利差が経営に与える影響
この金利差は、資金調達と運用の両面で会社経営に大きく影響します。
5-1. 借入依存度が高い場合
金利差が大きい状態で多額の借入を続けると、利息負担が利益を圧迫します。
特に運転資金の長期化は、利息支払いの総額を大きくし、資金繰りの負担が大きくなる傾向があります。
5-2. 資金を遊ばせている場合
低金利の預金に多額の資金を置いておくと、実質的に「お金が働いていない」状態になります。
また、インフレ環境では実質的な価値が目減りする可能性もあります。
6. 金利差を踏まえた実務的対応策
金利差は避けられない現実ですが、その影響を最小限に抑える方法はあります。
6-1. 借入金利の見直し交渉
金融機関に対して、取引実績や財務改善の状況を示し、金利引き下げ交渉を行うことが有効です。
例えば、決算直後や借換のタイミングに交渉をするという事があります。
6-2. 不要な借入の圧縮
余剰資金がある場合、低金利の運用に回すよりも、
高金利の借入を一部返済する方が利息負担軽減につながる場合があります。
6-3. 預金の分散・運用見直し
資金の安全性を確保しつつも、
一部を普通預金より高利回りの安全資産に振り分ける方法も検討できます。
6-4. 資金繰り表の活用
金利差を考慮した資金繰り表を作成し、資金の流れとコストを可視化することで、
戦略的な資金管理が可能になります。

7. まとめ
借入金利が高く、預金金利が低いのは、
金融機関の利益構造、
リスクプレミアム、
運営コスト、
金融政策 等
の複数の要因が重なった結果です。
中小企業経営では、この金利差を認識した上で、資金調達・運用戦略の中でどう活かすかが重要です。
- 借入金利の交渉や借換で利息負担を下げる
- 余剰資金の運用効率を高める
- 資金繰りを見える化して意思決定の精度を上げる
こうした実務的対応を積み重ねることで、金利差がもたらす不利な影響を減らし、
経営の安定性を高めることができます。
「お金を借りる」「お金を預ける」という日常的な業務において、
確かな理解を身につけて、資金繰りをより良くする経営判断に繋げていきましょう。