
目次
はじめに
ニュースで「長期金利が上昇」「10年国債利回りが上がった」と報じられることがあります。
しかし、この“長期金利”がどのように決まっているのかを、正確に説明できる人は意外と少ないかもしれません。
長期金利は、企業の借入金利や住宅ローン、投資判断にまで影響を与える“経済の体温計”です。
特に経営者や経理担当者にとっては、金利の動きを理解することが、
資金繰りの安定や経営判断の精度を高める上で欠かせない視点になります。
この記事では、
- 長期金利とは何か
- どのようにして決まるのか
- 日銀の金融政策や国債市場との関係
- そして企業経営への影響
を、できるだけわかりやすく整理して解説します。

1. 「長期金利」とは何か
まずは基本から確認しましょう。
長期金利とは、1年以上の期間でお金を貸し借りするときの金利のことです。
その代表的な指標が「10年物国債利回り」です。
つまり、
“国が10年間お金を借りるときに支払う金利”
が、長期金利の目安になっています。
この金利は、金融機関が企業に貸す金利(長期融資や固定金利ローン)や、
住宅ローン金利、社債の利回りなどの基準にもなっています。
したがって、長期金利が上がれば借入コストも上がる、
下がれば資金調達がしやすくなるという構図になります。
2. 長期金利はどうやって決まるのか
長期金利は、政府や日銀が一方的に決めるものではありません。
実際には、**国債市場での需給(=売る人と買う人のバランス)**によって決まります。
国債が人気でたくさん買われれば価格が上がり、利回り(=金利)は下がります。
逆に、売る人が増えて価格が下がれば、利回りは上昇します。
このように、国債市場の取引を通じて金利が自然に形成されていくのです。
💡 具体例でイメージ
たとえば、額面10万円の国債に対して年1,000円の利息が付くとします。
最初に10万円で買えば利回りは1%です。
しかし、国債が人気になって11万円で取引されると──
同じ1,000円の利息でも「1,000円 ÷ 11万円 = 約0.9%」。
つまり、価格が上がると利回りは下がるという関係になります。
この「価格」と「利回り」の逆の動きが、長期金利の基本構造です。
3. 長期金利に影響する主な要因
では、国債市場での価格・利回りを動かす要因にはどのようなものがあるのでしょうか。
主に次の4つが挙げられます。
(1)経済成長率
景気が上向くと、企業の設備投資や個人消費が増えます。
その結果、資金需要が高まり、金利は上がりやすくなります。
逆に、景気が悪化して投資が減れば、金利は下がりやすくなります。
つまり、長期金利は景気動向を映す指標でもあります。
(2)物価(インフレ率)
物価が上がると、お金の価値(購買力)は下がります。
たとえば、今100円で買えたものが、将来は120円になるかもしれません。
そのため投資家は、「それなら、もっと利息をもらわないと割に合わない」と考え、
より高い金利を求めるようになります。
結果として、インフレが進むと長期金利も上がりやすくなります。
(3)金融政策(日銀の方針)
日本銀行は、短期金利(政策金利)を直接操作する一方で、
長期金利については「長短金利操作(YCC)」という政策を通じて影響を与えています。
そして、日銀は、国債を売買して金利を安定させるという行動をとります。
つまり、長期金利は“市場の力”だけでなく、日銀の政策によっても左右されているのです。
(4)海外金利(特にアメリカの金利)
近年では、海外の金利動向も大きな影響を与えています。
特に米国の10年国債利回りが上昇すると、
日本との金利差が拡大して円が売られ、円安・金利上昇につながることがあります。
グローバルな資金の動きが、日本の長期金利にも波及する時代になっているのです。

4. 日銀の「国債買入れ」と長期金利の関係
日銀は金融政策の一環として、国債を定期的に買い入れています。
この「国債買入れ」は、長期金利に直接的な影響を与える仕組みです。
日銀が国債を買えば価格が上がり、利回り(=金利)は下がります。
逆に、買入れを減らせば価格が下がり、利回りは上がります。
このようにして、**日銀は市場を通じて長期金利の動きを“間接的にコントロール”**しているのです。
2025年時点では、日銀は大規模緩和からの「正常化」を進めながらも、
長期金利が急に上がらないよう、市場に一定の安定感を持たせる買入れを継続しています。
この「調整の度合い」が、今後の金利動向を読む上での重要なポイントです。
5. 長期金利の動きが企業経営に与える影響
長期金利の変化は、金融市場だけでなく、企業の経営判断にも直結します。
ここでは主な3つの影響を見てみましょう。
(1)借入コストの変動
長期金利が上がると、金融機関の調達コストも上昇します。
その結果、企業への貸出金利も引き上げられる傾向があります。
たとえば、10年国債利回りが0.8%から1.2%に上がれば、
固定金利型の融資や社債の金利もそれに連動して上昇します。
つまり、長期金利の上昇は会社の資金繰りを圧迫する要因になり得るのです。
(2)投資判断への影響
長期金利が上がると、「お金の時間的な価値」を計算するときの基準が厳しくなります。
たとえば、将来の利益を今の価値に直すとき、より高い金利で割り引くため、
同じ利益でも“今の価値”は小さく見えるようになります。
その結果、投資の採算が悪化し、新しい設備投資などを控える動きが出やすくなります。
逆に、金利が低ければ、資金調達がしやすく、投資にも積極的になりやすい。
このように、金利は企業の“攻めと守り”を左右するバランス要素です。
(3)金融機関との関係変化
金融機関にとっても、長期金利は収益を左右する指標です。
金利が上がると、国債の評価損が出ることがありますが、
同時に貸出金利が上がることで利ざや(利益幅)が改善する場合もあります。
つまり、長期金利の動きは、金融機関の融資姿勢にも影響するのです。
経営者は、金利だけでなく、金融機関が置かれている環境を理解しておくことが重要です。
6. 今後の長期金利を読むポイント
長期金利の動きを予測することは容易ではありませんが、
経営に役立つ“方向感”をつかむための3つの視点があります。
- 日銀の金融政策方針
→ 会見や金融政策決定会合での発言内容をチェック。 - 物価と賃金の動向
→ インフレ率と賃上げ傾向が続くかがポイント。 - 海外金利との比較
→ 米国金利との差が拡大すれば円安・金利上昇に動きやすい。
これらを組み合わせて、「今後の金利水準がどう変わるか」を考えることが、
中長期的な資金繰り戦略を立てるうえで有効です。

まとめ
長期金利は、国債市場での取引によって決まる部分があり、
経済成長・物価・金融政策・海外金利など、さまざまな要因が絡み合って動いています。
日銀の政策は金利を安定させる“舵取り役”であり、
企業の借入金利や投資判断にもその影響は及びます。
経営者にとって重要なのは、金利の上下を予測することではなく、
「なぜ金利が動いているのか」を理解して備えることです。
金利の仕組みを知ることは、
不確実な時代における“経営リスクの見える化”でもあります。
長期金利の動きを読む力を磨くことで、
より強い財務体質と安定した経営判断が可能になるでしょう。
免責事項
本記事は、2025年10月時点の公表情報および日本銀行・財務省・内閣府の資料を参考に執筆しています。
内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、投資・融資・経営判断の結果を保証するものではありません。
また、経済情勢や金融政策に関する見解は専門家によって異なる場合があります。
最終的な判断は、最新の公式資料および専門家の助言に基づいて行ってください。
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