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佐藤充宏 江東区で税理士事務所・ファイナンスコンサルティング会社を経営しています。

国債利回りの変動が、会社の資金調達コストに与える影響

国債利回りの変動が、会社の資金調達コストに与える影響

はじめに

ニュースで「国債利回りが上昇した」「長期金利が上がった」という報道を目にする機会が増えています。
一見、国の財政や投資家の話に思えるかもしれませんが、
実はこの「国債利回りの変動」は、**会社の資金調達コスト(=借入金利)**に
影響を与える重要な要素です。

特に中小企業や経営者にとっては、
「金利が上がる=返済額が増える」というだけでなく、
金融機関の融資姿勢や資金繰り全体の流れが変わるという点を
理解しておくことが経営判断に大きく関わってきます。

この記事では、
国債利回りとは何か、なぜ変動するのか、
そしてそれが企業の借入コストや金融機関の対応にどのように影響するのかを、
できるだけわかりやすく整理して解説します。


1. 国債利回りとは何か

まず、基本となる「国債利回り」の意味を確認しておきましょう。

国債利回りとは、**国債を保有したときに得られる利息の割合(=金利)**のことです。
たとえば、額面10万円の国債で年1,000円の利息を得る場合、
利回りは1%になります。

この利回りは市場での国債の取引価格によって変動します。
国債の価格が上がれば利回りは下がり、
価格が下がれば利回りは上がる──
この逆の関係は、金融市場の基本ルールです。


2. 国債利回りは「長期金利」の指標

国債利回りの中でも、特に注目されるのが10年物国債の利回りです。
これは「長期金利」と呼ばれ、
住宅ローン金利や企業の長期借入金利など、
“長期の資金コスト”の基準になります。

金融機関は、融資やローンの金利を設定する際、
この10年国債利回りをベースに「リスクプレミアム(上乗せ金利)」を加えて決定します。
つまり、国債利回りが上昇すると、企業の借入金利も上がる傾向にあるのです。


3. なぜ国債利回りは変動するのか

国債利回りが変動する理由は、主に次の3つです。

(1)金融政策の変化

日本銀行(日銀)が行う政策金利の調整は、
国債利回りに直接影響します。
金利を上げると、新しい国債の方が高い利息になるため、
昔の“利息の低い国債”は人気が下がって値下がりします。
その結果、利回りは上がります。

2025年現在、日銀は長年続いた「ゼロ金利政策」を解除し、
短期金利をおおむね0.5%前後に維持しています。
その結果、10年国債利回りも1%台で推移しており、
“超低金利時代”からの緩やかな正常化が進んでいます。


(2)インフレ・物価上昇の影響

物価が上がると、将来受け取る利息の価値が下がるため、
投資家はより高い利回りを求めます。
その結果、国債価格が下がり、利回りが上昇します。

このように、インフレ率が高まる局面では、
国債利回り=市場金利が上昇しやすくなるという傾向があります。


(3)海外金利とのバランス

日本の国債市場は、海外金利の影響も大きく受けます。
とくに米国の10年国債利回りが上昇すると、
日本の投資家が米国債を買うために円を売る動きが強まり、
円安・金利上昇につながるケースがあります。

このように、国債利回りは日本国内だけでなく、国際的な資金の流れにも左右されるのです。


4. 国債利回りが上昇すると何が起きるのか

国債利回りの上昇は、経済全体に広く影響します。
その中でも、企業経営に直結するのが「資金調達コストの上昇」です。


(1)借入金利が上がる

国債利回りは、金融機関が企業に貸し出す際の金利の基準といわれています。
利回りが上がると、金融機関の調達コストも上がるため、
企業への貸出金利も引き上げられる傾向にあります。

たとえば、
10年国債利回りが0.8%から1.2%に上昇すると、
融資金利もそれに連動して0.4%程度上がることがあります。
このわずかな上昇でも、
1億円を借りている企業なら年間40万円の利息負担増です。
資金繰りに直結する数字と言えるでしょう。


(2)金融機関の融資姿勢が変わる

国債利回りが上昇すると、金融機関にとっては、
国債を保有するだけで一定の利回りが得られる状況になります。
そのため、リスクを取ってまで企業融資を拡大する必要が薄れ、
貸出に慎重になる傾向が強まります。

つまり、金利上昇局面では「融資が出にくくなる」ことも起きやすいのです。


(3)企業価値・投資判断への影響

金利が上がると、将来得られる利益を「現在価値」に割り引く際の
割引率(=資本コスト)も上昇します。
これは、設備投資の採算判断や企業価値評価に影響します。

たとえば、10年後に1億円の利益が得られる計画があったとしても、
金利が1%から2%に上がると、その“将来のお金”の価値は
いまの時点では約9,000万円ほどに下がってしまいます。
つまり、金利が上がると「将来の利益の価値が小さく見える」ため、
投資を控える企業が増えるのです。


5. 金利上昇期における経営上の注意点

金利が上昇する局面では、
「借入」「投資」「資金繰り」の3点で注意が必要です。


(1)固定金利と変動金利の見直し

変動金利で借入をしている場合、金利上昇の影響を直接受けます。
長期的に資金を使う予定がある場合は、
例えば、一部を固定金利に切り替えることでリスク分散が可能です。

逆に、金利が安定している時期には、
変動金利を選択することで金利コストを抑えられることもあります。
重要なのは、会社のキャッシュフローと金利動向を照らし合わせて判断することです。


(2)資金繰り表で「金利感度」を把握する

資金繰り表を作成する際、
金利が0.5%上がった場合、1%上がった場合のシミュレーションを行いましょう。
これにより、どの程度の金利上昇まで許容できるのかを可視化できます。

金利の動きを「数字で管理」することが、
安定した資金運営の第一歩です。


(3)投資と借入のタイミングを分ける

金利が上昇している局面では、
投資と借入を同時に進めるのはリスクが高くなります。
新規投資を行う場合は、金利が落ち着くタイミングを待つ、
あるいは内部留保を活用する
など、資金の出し方を工夫しましょう。


6. 国債利回りを「経営の指標」として見る

国債利回りのニュースは、一見専門的に見えますが、
経営にとっては“未来の資金コスト”を示す重要なサインです。

  • 10年国債利回りが上がる → 将来の金利上昇リスク
  • 10年国債利回りが下がる → 資金調達環境が緩和

このように、国債利回りは単なる経済指標ではなく、
**経営判断に直結する“シグナル”のような役割を果たしています。


まとめ

国債利回りは、国の財政状況や金融政策だけでなく、
企業の資金調達コストにも密接に関わっています。

利回りが上がれば、
・企業の借入金利が上昇する
・金融機関の融資姿勢が厳しくなる
・投資判断や企業価値に影響が出る

という連鎖が起こります。

経営者や経理担当者に求められるのは、
ニュースの「金利上昇」という言葉の裏にある“意味”を読み解き、
資金繰り・借入・投資のバランスを考える力です。

国債利回りを理解することは、
会社のお金の流れを読む力を養うことでもあります。


免責事項

本記事は、2025年10月時点の公表情報および財務省・日本銀行・金融庁などの資料を参考に執筆しています。
内容は一般的な情報提供を目的としており、投資・融資・経営判断の結果を保証するものではありません。
また、一部の見解は経済情勢や専門家によって異なる場合があります。
最終的な判断は、最新の公式資料および専門家の助言に基づいて行ってください。

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記事執筆者

税理士 佐藤充宏
東京都江東区で税理士事務所及びファイナンスコンサルティング会社を経営している佐藤充宏と申します。

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