
目次
はじめに
ニュースや経済番組で「国債は安全な資産」と表現されることがあります。
しかし、「なぜ安全なのか?」を明確に説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。
確かに国債は、株式や為替ほどに大きく値動きする商品ではありません。
けれども「国が発行している=絶対に安全」というわけでもありません。
この記事では、国債が安全資産とされる根拠を、財政・信用・市場の3つの視点から整理します。
経営者や経理担当者の方が「なぜ国債の動きが金利や景気に影響するのか」を理解できるよう、
実務目線でやさしく解説します。

1. 国債は「国が発行する借用証書」
まず、基本から確認しておきましょう。
国債とは、国が資金を調達するために発行する債券のことです。
政府は、税収だけではまかなえない支出(公共事業や社会保障など)を補うために、
投資家や金融機関からお金を借り入れ、その見返りとして国債を発行します。
国債の購入者は、国にお金を貸している立場です。
そのため、満期になると元本(借りたお金)が返済され、
保有期間中は利息が支払われます。
つまり国債とは、国が「必ず返す」と約束した“借用証書”なのです。
では、なぜそれが「安全」だと考えられているのでしょうか。
2. 「安全な資産」と呼ばれる3つの理由
国債が安全な資産と呼ばれる理由は、大きく分けて次の3つです。
① 信用の裏付けが「国家」であること
最も大きな理由は、国債は国家の信用を背景にしている点です。
企業が資金調達する場合は「会社の信用力」が問われますが、
国債は「国の信用」で発行されるため、破綻の可能性が極めて低いと考えられています。
特に日本の場合、
- 円という自国通貨で国債を発行している
- 日本では、国民が貯金や預金の形で多くのお金を国内に保有しており、
その資金が金融機関を通じて国債の購入に回っているという仕組みがあります。
つまり、**お金が国内で回っている(=国内で資金が循環している)**ため、
海外に依存しにくい安定した構造になっているのです。
このため、外国からの借金(外貨建て債務)を多く抱える国と比べ、
返済不能(デフォルト)に陥るリスクは低いとされています。
たとえば、外国通貨で借金している国は、為替が大きく動くと返済額が増え、
財政が一気に悪化するリスクを抱えます。
しかし日本のように「円建て国債」が中心の国では、
必要に応じて日銀が金融政策を通じて市場を安定させられるといわれています。
② 流通市場が整備され、いつでも売却できる
2つ目の理由は、国債の流動性(売買のしやすさ)が非常に高いことです。
国債は金融市場で取引されており、
金融機関・保険会社・年金基金などが日々売買しています。
投資家が「現金が必要になった」ときも、
市場で国債をすぐに売却して資金化できるのが特徴です。
この点は、土地や不動産など他の資産とは大きく異なります。
また、日本の国債市場は世界でも有数の規模を誇り、
安定した取引が行われているため、
「安全に売買できる資産」としての信頼性が高いのです。
③ 日本銀行が金融政策を通じて支えている
3つ目の理由は、日本銀行(日銀)の金融政策による支えです。
日銀は、2025年時点でも金融市場の安定を最優先に政策を運営しています。
長らく続いた「ゼロ金利政策」はすでに見直され、
現在の短期金利(政策金利)はおおむね0.5%前後で推移しています。
一方で、10年国債利回りなどの長期金利は1%台前半で落ち着いており、
日銀は市場の急激な金利上昇を抑えるため、
国債の買い入れ(公開市場操作)を通じて金利の変動をなだらかに調整しています。
このように、2025年の金融政策は「超低金利の維持」から「緩やかな正常化」へと移行していますが、
同時に、景気や物価への影響を最小限に抑えながら、
国債市場の安定を守るというスタンスが続いています。
つまり、国債の“安全性”は単に市場任せではなく、
日本銀行の政策的な支えによって維持されているのです。
3. 「安全な資産」でもリスクはゼロではない
とはいえ、国債も「完全にリスクがない資産」ではありません。
代表的なリスクは次の3つです。
① 金利変動リスク
金利が上昇すると、新しく発行される国債の利回りが高くなるため、
過去に発行された“低金利の国債”の価格は下がります。
たとえば、1%の利息がつく国債を持っているときに、
市場金利が2%に上がれば、新しい国債のほうが有利になります。
その結果、古い国債の市場価格は下がり、
途中で売却すると損をする可能性があります。
ただし、満期まで保有すれば元本と利息は確実に受け取れるため、
「一時的な評価損」にとどまるケースがほとんどです。
② インフレリスク
物価が上昇すると、同じ金額でも買えるものが減ります。
たとえば、10年前の1万円と今の1万円では、
購買力(お金の価値)が違います。
国債の利息があらかじめ決まっている場合、
物価が上がるほど、お金の価値が下がるため、
受け取る利息の“実質的な価値”は目減りしてしまいます。
このリスクを軽減するため、政府は
「物価連動国債(インフレ連動国債)」を発行しています。
これは、物価が上がると利息や元本も増える仕組みの国債で、
実質的な価値の目減りを防ぐ役割を果たしています。
③ 財政リスク
国債は「国の信用」で支えられています。
そのため、政府の財政状況が悪化すると、
将来的な信頼に影響が出る可能性も否定できません。
ただし、日本の場合は
- 国債の大部分を国内の金融機関が保有している
- 外貨建てではなく円建てで発行している
という特徴があるため、海外要因で急に返済不能になるリスクは低いと考えられています。

4. 国債の安全性を支える「信頼の連鎖」
国債が安全資産として機能している背景には、
金融機関・日銀・政府・国民という「信頼の連鎖」があります。
- 政府が国債を発行する(国の信用を提示)
- 金融機関や保険会社が購入し、安定運用に活用
- 日銀が市場を安定化させる政策を実施
- 個人投資家も安心して国債を保有できる
この連鎖が崩れない限り、国債の信用は維持されるといえます。
逆に言えば、「信頼」が失われると、安全な資産ではなくなるのです。
5. 経営者にとっての示唆──“安全”をどう見るか
国債の安全性は、経営におけるリスク管理とも共通しています。
企業もまた、信用を基盤として資金を動かしています。
たとえば、
- 金融機関からの借入金利は、信用力によって変わる
- 顧客との取引条件も、信頼関係によって決まる
つまり、国債の「安全性」とは、
信用の維持=約束を守る力によって成り立っているのです。
経営者にとっても、
「信用を積み重ねることが最大のリスク対策である」
という点は、国債と共通しています。

まとめ
国債が「安全な資産」とされるのは、
① 国家の信用に裏付けられていること、
② 市場でいつでも売買できること、
③ 日本銀行が金融政策で支えていること、
この3点に集約されます。
“安全”とは、何もしなくても続く状態ではありません。
国は財政の健全化で信頼を守り、
企業は誠実な経営で信用を育てる──
その姿勢こそが、長期的な安定を支える力になります。
免責事項
本記事は、2025年10月時点の公表情報および財務省・日本銀行・内閣府などの資料を参考に執筆しています。
内容は一般的な情報提供を目的としており、投資・融資・経営判断の結果を保証するものではありません。
また、本文中の経済・金融に関する見解は一般的な説明を目的としたものであり、
専門家によっては解釈が異なる場合があります。
最終的な判断は、最新の公式資料および専門家の助言に基づいて行ってください。
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