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佐藤充宏 江東区で税理士事務所・ファイナンスコンサルティング会社を経営しています。

米ドルが基軸通貨である理由──世界経済の構造と円との関係

米ドルが基軸通貨である理由──世界経済の構造と円との関係

はじめに

世界経済のニュースでは、必ずといってよいほど「米ドル」の動きが取り上げられます。

原油価格、国際金利、外国為替、世界貿易、市場の資金フローなど──多くの指標は米ドルを中心に動きます。

しかし、

なぜ米ドルが中心なのか?
なぜ円やユーロではなく、米ドルが“世界の基軸通貨”なのか?
そして、米ドルの位置づけは日本の経済・会社経営にどう関係するのか?

こうした疑問をお持ちになる事があると思います。

実務において、米ドルの地位を理解することは、

仕入価格
燃料費
物流費
金利
外貨建取引
資金調達
為替リスク管理

など、会社の経営判断に直結する基礎知識にもなります。

この記事では、米ドルが基軸通貨となった背景と現在の構造を体系的に解説し、さらに円との関係や日本企業への影響について、経営・経理目線でわかりやすく整理します。

1. 米ドルが基軸通貨になった歴史的背景

米ドルが世界の中心通貨となった理由には、歴史的な経緯が深く関係しています。

「ブレトンウッズ協定」締結

1944年、世界経済の枠組みを決めた「ブレトンウッズ協定」が締結されました。

当時、米国は、

世界最大の生産力
圧倒的な金保有量
政治体制の安定
巨大な内需市場

を備えていました。

その結果として、世界中の国々が「米ドルを中心に据える」ことを選択しました。

ドルが金と交換できる“信用通貨”だった

ブレトンウッズ体制では、

1オンス=35ドル
で金と交換できる仕組み(ドル本位制)が採用されました。

これは、米ドルが「金と同じ価値」を持つと世界に認められたことを意味します。

その後、1971年に金との交換は廃止されましたが、それまでに確立された信用が現在の基軸通貨の地位につながっています。

2. 現代でも米ドルが基軸通貨である理由

歴史的背景だけではなく、現在の経済システムそのものが「ドル中心」に設計されています。

国際貿易の主要通貨である

世界の貿易取引が、多くの割合でドル建てで行われています。

原油
天然ガス(LNG)
小麦やトウモロコシなど穀物
金属(銅・鉄鉱石・アルミなど)
航空機・大型機械

といった国際商品はほぼドル建てのため、輸入国はドルを使わざるを得ません。

国際送金・決済の中心通貨である

金融機関が利用する国際送金ネットワーク(SWIFT)でも、米ドルのシェアは常にトップです。

世界の投資家・企業・金融機関は、ドルが最も使いやすく、安全で、流動性が高い通貨として認識しています。

各国の外貨準備の中心である

世界の中央銀行が保有する外貨準備の多くの割合が米ドルです。

これは、「米ドルが最も信頼され、必要とされている通貨」であることを示しています。

3. 米ドル基軸の構造が日本企業に与える影響

米ドルが基軸通貨であることは、日本企業の経営に大きく影響します。

輸入コストが米ドルに連動する

原油
LNG
金属
穀物

など、ほぼすべてドル建てのため、円安になると輸入価格が上昇します。

その結果、

電気料金
ガソリン
物流費
原材料費
食品価格

など、会社のあらゆるコストに波及します。

外貨建て借入の返済額が変動する

ドル建てで借りた借入金は、円安になると返済額が増えるため、資金繰りに影響します。

日米金利差が為替に大きく影響する

米国が高金利、日本が低金利という状況が続くと、

高金利のドルが買われる

円が売られる

円安が進む

この構造は、中小企業の仕入れや調達コストに直結します。

世界情勢のニュースが経営に影響する

戦争
災害
米国の金融政策
雇用統計
インフレ指標

これらすべてが、

仕入価格
利益率
資金繰り
販売動向

に直接影響します。

4. 経営者・経理担当者が押さえておきたい3つの視点

米ドル基軸の世界を理解すると、経営判断の精度が高まりますが、次の点に留意するようにしましょう。

① 想定為替レートを明記する

見積・予算・計画には、必ず前提となる為替レートを記載し、
「1円動いた場合の影響額」も確認しておきましょう。

② 原価の“ドル依存度”を把握する

直接輸入していなくても、取引先や仕入先がドルで取引しているケースは多くあります。
上流のどこでドル建て取引が発生しているかを確認することで、リスクが見える化します。

③ 為替予約や調達通貨の分散も検討する

外貨建の取引が多い企業は、金融機関と相談し、為替リスクのヘッジ(為替予約等)を検討する余地があります。

まとめ

米ドルが基軸通貨である理由は、歴史だけではなく、
現代の世界経済の構造そのものがドルを中心に設計されているためです。

国際貿易、国際決済、外貨準備、金融市場の厚み──
これらすべてが米ドルの圧倒的強さを支えています。

日本円は信頼される安全資産ですが、米ドルに代わる基軸通貨となるには流動性・経済規模ともに不足しており、現実的ではありません。

しかし、米ドル基軸の構造を理解すると、

仕入価格
燃料費
原材料価格
外貨建債務
金利差
資金繰り

など、会社の数字の変動理由を説明できるようになります。

経営者・経理担当者にとって、
為替と米ドルの性質を理解することは、経営の安定性を高める重要な知識です。

【免責事項】

本記事の内容は、執筆時点の一般的な経済知識・国際金融の慣行に基づき作成したものであり、
特定の投資判断・経営判断・会計処理を推奨するものではありません。

実際の取引・契約・会計処理を行う際は、
税理士・公認会計士・金融機関・弁護士など専門家への相談をおすすめします。

また、将来の為替レート・金利動向を保証するものではありません。
本記事を利用した結果生じたいかなる損害についても、責任を負いかねますのでご了承ください。

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Q. 米ドルはなぜ「基軸通貨」と呼ばれているのですか?

A. 米国経済の規模が世界最大であり、貿易・投資・資源取引の多くがドルで行われているためです。また、米国の金融市場の信頼性が高く、各国の外貨準備の多くがドルで保有されていることも理由です。

Q. 国際貿易では、なぜ自国通貨ではなく米ドルが使われることが多いのですか?

A. ドルは流動性が高く、取引相手を選ばず世界中で受け入れられるためです。特に石油・天然ガス・穀物などの主要資源はドル建てで価格が決まるため、貿易決済にドルが使われます。

Q. 企業は米ドルの動きをどのように経営判断に活かすべきですか?

A. 仕入・輸入・海外取引がある場合は、ドルの動向が原価や利益構造に直結します。為替前提レートを設定し、価格転嫁・為替予約・調達ルート分散などのリスク管理策を取り入れることが大切です。

記事執筆者

税理士 佐藤充宏
東京都江東区で税理士事務所及びファイナンスコンサルティング会社を経営している佐藤充宏と申します。

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