
目次
1. はじめに
「信用金庫には“会員制度”がある」
「会員になるには、口座を作るだけでなく“出資金”を払う必要があると聞いた」
経営者や経理担当者の方の中には、このような話を聞いた経験がある方も多いのではないでしょうか。
同じ地域金融機関でも、銀行には存在しない「信用金庫独自の制度」が“会員制度”と“出資金”です。
これらは、単に融資や口座取引の仕組みというだけでなく、信用金庫の「地域密着型金融」という特徴を理解するうえで欠かせない概念です。
本記事では、信用金庫の会員制度と出資金の基本的な仕組み、経営者にとってのメリット・注意点、実務で押さえておくべきポイントを整理して解説します。
2. 信用金庫の基本的な特徴
まず、信用金庫がどのような存在かを簡単に整理しておきましょう。
信用金庫は「地域の中小企業や住民のための協同組織金融機関」です。
株式会社である銀行とは異なり、利益の最大化を目的とするのではなく、「地域の発展と会員の繁栄」が設立目的とされています。
この理念を支える仕組みが、会員制度と出資金なのです。

3. 会員制度とは?
信用金庫では、口座を開設するだけなら基本的に誰でも可能ですが、融資や経営支援を受ける際には「会員」になることが求められる場合があります。
(1)会員になれる人の条件
会員になれるのは、通常、信用金庫が営業する地域に「住所」または「事業所」がある個人や法人です。
つまり、地域に根ざした人や会社でなければ、原則として会員になることはできません。
(2)会員になるとどうなるか
会員になると、以下のような権利や機会が得られます。
- 信用金庫の融資の利用(原則会員が対象)
- 信用金庫の経営支援サービス(経営相談、専門家紹介、補助金情報提供など) 等
一方で、会員は「出資金」を払い込み、信用金庫の運営に参画する立場になります。
4. 出資金とは?
出資金は、会員が信用金庫に対して払い込む資金です。
株式会社の「株式」に似ていますが、性質は大きく異なります。
(1)金額と払い込み方法
- 出資金の金額は信用金庫ごとに異なり、数万円単位から設定されています。
- 会社の場合、必要口数をまとめて払込むことが多く、資本金のような性格を持ちます。
(2)性質と注意点
- 譲渡不可:原則として他人に譲渡することはできません。
- 配当あり:出資金に対して、年に一度配当が支払われる場合があります(ただし利率は低め)。
- 解約時の払い戻し:会員を脱退すれば出資金は返還されますが、即時ではなく一定の手続きを経て払い戻しされます。
5. 会員制度と出資金がある理由
なぜ銀行にはなく、信用金庫には会員制度と出資金があるのでしょうか。
理由は「協同組織としての成り立ち」にあります。
株式会社である銀行は、株主が出資し、株主の利益を最大化することを目的に経営されます。
一方、信用金庫は地域の住民や会社が出資し合い、その資金をもとに「地域経済を支える」ことを目的とします。
つまり、信用金庫の出資金は「地域のための共同基金」のような意味合いを持っているのです。

6. 経営者にとってのメリット
信用金庫の会員になり、出資金を払うことには以下のようなメリットがあります。
- 融資を受けやすくなる
原則として会員であることが融資利用の条件となるため、資金調達の選択肢を広げられます。 - 経営サポートが受けられる
経営相談や補助金情報の提供、地元企業とのマッチングなど、金融以外の支援が期待できます。 - 地域ネットワークとのつながり
総会やイベントを通じて、地域の他の経営者とのネットワークを築ける場合があります。
7. 注意点・リスク
一方で、出資金には以下のような注意点も存在します。
- すぐに返金されない
会員を脱退すれば出資金は返還されますが、即時ではなく、一定の時間がかかります。 - 高利回りではない
出資金への配当率は通常低く、投資目的で期待できる水準ではありません。 - 会員資格の制約
原則として営業地域外に移転すると会員資格を失います。
8. 実務で押さえるべきポイント
経理担当者や経営者が実務で押さえておきたいのは次の点です。
- 出資金は「出資金勘定」として資産計上する(会計処理上は投資有価証券に近い扱い)
- 脱退時の返還までの期間を考慮し、流動資産ではなく固定資産として扱うケースが多い
- 出資金を支払ったからといって必ず融資が受けやすくなるわけではないが、信用金庫との関係性を築く入口になる

9. まとめ
信用金庫の「会員制度」と「出資金」は、銀行にはない仕組みであり、地域金融の根幹を支える重要な要素です。
- 会員になるには地域に根ざしていることが基本的な条件
- 出資金は数万円単位から払い込み、信用金庫の経営基盤を支える資金となる
- 会員になることで融資や経営支援を受けやすくなる可能性がある一方、解約時の返金や配当水準には注意が必要
経営者にとっては、単なる金融取引先ではなく「地域のパートナー」として信用金庫とどう付き合うかを考える必要があります。
資金調達の選択肢を広げるだけでなく、地域とのつながりや経営支援を活用することで、会社の持続的な成長に活かしましょう。