
目次
1. はじめに
金融機関は、私たちが日常的に利用する「預金」を基盤に資金を集め、貸出や投資を通じて社会全体へお金を循環させています。
しかし、金融機関の資金調達は預金だけではありません。
実際には、金融市場を通じて積極的に資金を集めています。
ではなぜ、預金があるのに、市場からも調達する必要があるのでしょうか。
本記事では、金融機関が預金以外から資金を調達する理由、市場調達の仕組み、そしてそれが会社経営にどのような影響を与えるかについて整理します。

2. 預金だけでは不十分な理由
一見すると「預金があるならそれで貸出を賄えばよい」と考えられますが、実務的には預金だけでは下記のような限界があります。
(1)預金は流動的で安定性に限界がある
預金者は自由に引き出しができるため、突発的な資金流出が起こりうる。
(2)資金需要の増大に対応できない
景気拡大期や特定産業への貸出需要が急増したとき、預金だけでは十分な資金をまかなえない。
(3)資金の通貨・期間のミスマッチ
預金は主に「円建て」かつ「短期間で動く資金」が中心ですが、一方で、会社が必要とする資金は次のように必ずしも同じ条件とは限りません。
・海外取引がある会社では「ドルやユーロなどの外貨建て資金」が必要になる場合があります。
・設備投資や新規事業などでは「数年単位で返済する長期資金」が求められます。
そのため、こうした 「預金の性質」と「会社の資金ニーズ」のズレ(ミスマッチ) を埋めるために、金融機関は市場から外貨や長期資金を調達して対応しているのです。
3. 市場調達の代表的な手段
金融機関が市場から資金を調達する方法には、例えば、つぎのような方法があります。
- コール市場での借入
金融機関同士が翌日や数日のごく短期資金を貸し借りする市場。資金繰りの調整に利用されます。 - CD(譲渡性預金)の発行
大口投資家向けに発行される特別な預金証書です。途中で第三者に売買できるため流動性が高く、国内外で広く使われています。 - 金融債・社債の発行
中長期の資金調達を目的とし、投資家から広く資金を集める手段。信用力や格付けが調達コストに直結します。 - 外貨市場での調達
輸出入取引などに必要なドルやユーロを、ユーロ市場や外国為替市場で調達。為替リスク管理が不可欠です。
4. 市場調達を活用するメリット
金融機関が預金以外に市場から資金を調達する理由は、単なる不足分の補填だけではありません。
- 資金調達の多様化
預金だけに依存すると、預金流出時に経営が不安定化するリスクがあるため、複数ルートを確保する。 - 柔軟な対応
大口の融資案件や突発的な資金需要に即応できる。 - 通貨・期間の調整
外貨や長期資金など、預金ではまかなえないニーズに対応可能。 - 国際競争力の維持
海外展開する金融機関にとって、市場調達はグローバル基準で資金を動かす手段として不可欠。
5. 市場調達のリスクとコスト
一方で、市場調達にはリスクも存在します。
- 市場金利の影響
金融市場の金利が上昇すれば調達コストも上がり、その分を貸出金利に転嫁せざるを得ません。 - 信用スプレッドの影響
金融機関の信用力が低下すると、市場からの資金調達に高い金利を払う必要があり、融資条件も厳しくなります。 - 為替リスク
外貨建て調達の場合、為替変動が資金コストに直結します。

6. 会社経営への示唆
金融機関が市場から資金を調達する仕組みを理解することは、会社の経営判断にも役立ちます。
- 金利上昇の背景を理解できる
貸出金利が上がったときに、「なぜ上がったのか」を説明できれば、資金戦略の立案に役立ちます。 - 交渉に説得力が増す
金融機関の調達環境を理解したうえで交渉することで、建設的な対話が可能になります。 - 資金繰り計画の精度が高まる
資金繰り表に「市場金利が0.5%上昇した場合」といったシナリオを組み込むことで、より現実的な計画が立てられます。
7. まとめ
金融機関が預金以外からも積極的に資金を調達するのは、
- 預金だけでは不足する資金需要への対応
- 通貨や期間のミスマッチ解消
- 調達ルートの多様化による安定性の確保 等
といった理由からです。
そしてその動きは、会社が受ける融資条件や資金繰りに直結します。
経営者や経理担当者は、金融機関の資金調達構造を理解し、金利や市場の変化を資金計画に反映させることで、より安定した経営基盤を築きましょう。