
目次
【はじめに】
「今期は売上も利益も計画どおりなのに、なぜか手元にお金が残らない」
「決算書を見ると、為替差損が出ていて利益が減っている」
こうした声は、輸出入を行っている会社だけでなく、国内取引が中心の中小企業からもよく聞かれます。
その理由の一つが、円安・円高といった為替変動の影響です。
為替は経営数値に直接・間接的に作用し、売上や利益、そして資金繰りにも影響を与えます。
今回は、なぜ「為替で利益が減る」のか、そのメカニズムと、中小企業がとるべき対応策を、実務目線でわかりやすく解説します。
【1. 為替の基本と円安・円高の意味】
為替とは、異なる国の通貨を交換する比率(為替レート)のことです。
たとえば「1ドル=150円」とは、1ドルを得るために150円必要であるという意味です。
■ 円安とは
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日本円の価値が下がること
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例:1ドル=100円 → 1ドル=150円になった場合、より多くの円を払わなければ1ドルを買えない
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輸入品やドル建て仕入れが高くなる
■ 円高とは
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日本円の価値が上がること
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例:1ドル=150円 → 1ドル=100円になった場合、少ない円で1ドルを買える
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輸入品やドル建て仕入れが安くなる
この円安・円高の動きが、企業のコストや利益に直接影響します。
【2. 「為替で利益が減る」3つの典型パターン】
1. 輸入コストの上昇(円安時)
中小企業が仕入れている原材料や製品は、直接輸入していなくても、上流の取引先が輸入しているケースが多くあります。
円安になると輸入価格が上がり、それが仕入価格や仕入原価に転嫁され、利益率を圧迫します。
例
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海外製部品を使う製造業
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輸入食材を扱う飲食業
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海外製機器を販売する商社
2. 為替差損の発生
外貨建てで仕入や借入をしている場合、円安になると円換算した金額が増え、帳簿上「為替差損」が発生します。
この差損は営業活動と直接関係がなくても、利益を減らす要因となります。
3. 輸出の利益減(円高時)
逆に円高になると、輸出企業は海外で得たドル建ての売上を円に換算した際の金額が減少します。
売上数量は同じでも、為替レートの違いだけで利益が目減りします。
【3. 為替の影響は輸出入企業だけではない】
為替は、直接輸出入を行っていない企業にも影響を与えます。
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間接的なコスト増加
→取引先が輸入コスト増を価格転嫁 -
光熱費や燃料費の上昇
→原油やLNGはドル建てで取引されるため、円安時は電気・ガス・ガソリン価格が上昇 -
消費者行動の変化
→物価高による消費抑制で売上減少の可能性
つまり、「為替は関係ない」と考えている企業も、実際には複数の経路から影響を受けています。
【4. 円安・円高のメカニズムと金利の関係】
為替レートは、経済の需給や国際情勢、そして金利差によって大きく動きます。
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円安が進む要因の一例
米国の金利が高く、日本の金利が低い場合、投資家は高金利通貨であるドルを買い、円を売る傾向が強まります。 -
円高が進む要因の一例
日本の金利が上昇、または米国の金利が低下し、金利差が縮まると、円が買われやすくなる
経営判断のためには、「金利差→為替→コスト・利益」という流れを理解しておくことが必要とされています。
【5. 中小企業が取るべき為替対応策】
① 為替の影響を見える化
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仕入・販売のどの部分が外貨や輸入価格に影響されるかを分析しましょう。
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為替変動による原価率の変化を試算し、想定される影響額を把握します。
② 価格転嫁の戦略を準備
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円安によるコスト増を販売価格に反映できるよう、事前に契約条件や取引先との交渉ルールを整備する必要があります。
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値上げの根拠となるコスト資料を社内で共有しましょう。
③ 為替予約・先物取引の活用
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大きな外貨建て取引がある場合は、為替予約でレートを固定した方が良いが検討をしましょう。
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金融機関や商社と相談し、費用対効果を検討しましょう。
④ 複数調達・販売ルートの確保
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輸入先を複数化して為替リスクを分散して、リスクを抑えられるようにしましょう。
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国内調達の比率を増やすことで為替リスクの影響を軽減しましょう。
【6. 実務担当者が押さえるべきチェックポイント】
次のポイントをチェックし、影響額の把握と見える化を実行しましょう。
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月次で為替レートと仕入原価の動きを照合
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大口外貨取引の予定と実行時レートの差異を記録
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年度計画には為替の前提レートを必ず明記
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決算期末における外貨建資産・負債の換算評価の確認
【まとめ】
為替変動は、輸出入企業に限らず、あらゆる業種の中小企業に影響を与えます。
「利益が減った」と感じる背景には、仕入コストや為替差損、売上換算額の減少など、複数の要因が絡んでいます。
だからこそ、経営者や経理担当者は、為替と金利の動きに関心を持ち、数字の変化の背景を理解することが重要です。
そして、影響を見える化し、価格転嫁や為替予約などの対策を事前に講じることで、為替リスクから会社を守ることができます。
為替を「外部要因だから仕方ない」で終わらせず、「管理できるリスク」に変えていくことが、中小企業の安定経営のポイントの一つです。