
目次
はじめに
為替(ドル円)は、1日のうちに何度も上下し、一週間、ひと月、一年と経つうちに大きく動き続けます。
しかし、なぜ為替レートが動くのか、その仕組みを正確に説明できる経営者・経理担当者は多くありません。
実際には、為替の変動は
仕入価格
粗利率
電気代・燃料費
物流費
海外取引
外貨建借入の返済額
など、会社のあらゆる数字に影響します。
つまり、為替を理解することは、経営判断や経理実務の精度を高める「基礎教養」です。
今回は、為替レートが動く理由を
需給
金利差
投資家の心理(リスクオン/リスクオフ)
世界情勢
投機的取引
経済指標
といった複数の視点から体系的に整理して解説します。
初心者の方でも理解できる内容にしつつ、経営判断に活かせる実務的な視点も交えて説明していきます。

1. 為替レートとは何か──まずは交換比率の基本
為替レートとは、異なる国の通貨を交換する際の「値段」のことです。
例
1ドル=150円
→1ドルを得るために150円必要
→150円払えば1ドルと交換できる
為替は商品や株価と同じように、
買いたい人が多い時は上がり、
売りたい人が多い時は下がります。
つまり、ドル円は
ドルを買いたい人が多い → ドル高円安
円を買いたい人が多い → 円高ドル安
という、シンプルな需給で動いています。
しかし、現実にはこの動きの背景に
金利
投資マネー
世界情勢
景気
投機筋の取引
などが複雑に絡みます。
次章からは、その要因を一つずつ解説します。
2. 為替が動く理由① 需給(買いたい人・売りたい人の数)
最も基本的な仕組みが「需給」です。
企業・個人・投資家・政府など、世界中のプレイヤーが、
ドルを買うのか
円を買うのか
その総量がレートを動かします。
● 輸入企業はドルを買う
海外から原材料や製品を購入する企業は
支払いのためにドルを買う必要があります。
→ 輸入が増える
→ ドル買いが増える
→ 円安要因
● 輸出企業はドルを売る
海外売上を円に換算する際にドルを売ります。
→ 輸出が増える
→ ドル売りが増える
→ 円高要因
● 海外投資が増えると円が売られる
日本から海外株式・海外不動産・海外債券へ資金が流れると
日本円を売り、ドルを買います。
→ 円売り
→ 円安要因
● 海外から日本への投資が増えると円が買われる
外国人投資家が日本株を買う場合
円を買って株を取得します。
→ 円買い
→ 円高要因
需給は“現実の取引”にもとづく基本的な動きで、
為替の変動の基礎土台です。
3. 為替が動く理由② 日米金利差(最大の要因)
現代の為替市場で最も注目される要因が「金利差」です。
一般論として、
金利の高い通貨は買われ、
金利の低い通貨は売られます。
理由は明快です。
金利の高い通貨で運用した方が利回りが高い
→世界の投資マネーが高金利に向かう
→その通貨が買われる
という仕組みです。
例えば、
米国の政策金利が5%
日本の政策金利が0.5%
となれば、
投資家は「高利回りのドルを持ちたい」と思う
→ドル買い
→円売り
→円安が進む
この仕組みは非常に強力で、
日米の金融政策の違いだけで
1年で20~30円動くケースもあります。
金利差は、企業の資金調達や外貨運用にも影響するため、
経営者・経理担当者が注目すべき指標の一つです。
4. 為替が動く理由③ 投資家の心理(リスクオン/リスクオフ)
投資家の「心理」も為替市場に大きな影響を与えます。
世界が安定している(リスクオン)
→株式などのリスク資産が買われる
→円は売られやすい(円安)
世界が不安定(災害・戦争・景気後退懸念など)
→安全資産が買われる
→円が買われやすい(円高)
日本円は
「世界で信用されている安全資産の一つ」
とされています。
そのため、
リスクオフ(不安定な状態)になると円高になりやすいのです。
5. 為替が動く理由④ 世界情勢・地政学リスク
為替は世界中のニュースに反応します。
次のような情報については大きく動くといわれています:
米国の経済指標(雇用統計・CPI)
各国のGDP
金融機関の破綻
戦争・地政学リスク
大規模な災害
選挙(米大統領選など)
中央銀行の政策発言
例
米国で景気後退懸念
→ドル売り
→円買い
→円高
油田地域で武力衝突
→原油高
→原油輸入国の日本の負担増
→円売り
→円安
こうした世界情勢は即座に為替に反映されます。
6. 為替が動く理由⑤ 投機的取引(短期売買)
為替市場には、投資ファンド・ヘッジファンドといった
巨額の資金を動かすプレイヤーが存在します。
彼らは短期的な値動きに賭け、
大量の売買を繰り返します。
短期的に円安・円高が急変する時は、
こうした投機筋の動きが要因の一つです。
投機的取引の例
トレンド追随型の大量買い・大量売り
損切り(ストップロス)の連鎖
マクロ戦略での一斉売買
投機筋の動きは短期的には強力で、
市場心理を一気に変える力があります。
7. 為替が動く理由⑥ 経済指標(マーケットが最も注視)
各国が毎月発表する経済指標も重要です。
注目されるのは:
米国雇用統計(最重要)
CPI(消費者物価指数)
小売売上高
GDP
製造業・サービス業PMI
金融政策会合(FOMC・日銀会合)
特に米国雇用統計は、発表直後に1円以上動くことも珍しくありません。
例
米国の雇用統計が予想より強い
→景気が強い
→金利は高いままか上昇の可能性
→ドル買い
→円安
経済指標の「予想との差」は為替に強く影響します。

8. 為替メカニズムを経営に活かすための3つの視点
為替の動く理由を理解すると、
「数字の変動理由」を説明できるようになります。
特に重要なのは以下の3つです。
● ① 想定レートの設定
見積・予算には
「前提としている為替レート」を必ず明記すること。
● ② 影響額の見える化
例えば、1円動くと粗利がいくら変わるか
という試算は非常に有効です。
● ③ 契約・価格交渉の仕組みづくり
為替連動型の価格調整ルール
見直しタイミング
コスト根拠資料の準備
これらは中小企業でもすぐに導入でき、効果が高い方法です。

まとめ
為替が動く理由は単純ではなく、
需給、金利差、投資家心理、世界情勢、投機、経済指標
といった多くの要因が影響し合っています。
しかし大きく整理すれば、
● 需給(基本)
● 金利差(中期)
● 世界情勢と心理(短期) 等
という視点で理解できます。
為替は仕入価格・粗利率・燃料費・資金繰りなど、
会社のあらゆる数字に影響します。
経営者・経理担当者は、
日々のニュースや数値変化の背景を理解し、
「なぜ動いたのか」を説明できることが
リスク管理にも役立ちます。
【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の一般的な制度・市況動向・経済メカニズムに基づいて作成したものであり、
特定の投資助言・経営判断・会計処理を保証するものではありません。
実際の取引・契約・会計処理を行う際には、
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利用により生じたいかなる損害についても責任を負いかねますので、
ご了承ください。
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A. 為替レートは「通貨を買いたい人」と「売りたい人」のバランスで決まります。輸入・輸出取引、投資マネー、金利差、世界情勢などが頻繁に変化するため、1日の中でも常にレートが動き続けています。
A. 一般的に金利の高い通貨は利回りを求める投資家に買われるといわれています。米国の金利が高く日本の金利が低い場合、高金利のドルを買いたい投資家が増え、結果として「ドル買い・円売り」が進み円安になりやすくなります。
A. 世界景気が強い「リスクオン」時には株式などリスク資産に資金が向かい、円は売られやすくなります。一方、世界情勢が不安定な「リスクオフ」時には、安全資産とされる円が買われ、円高が進みやすくなります。
A. 投機筋は巨額の資金で短期売買を行うため、買いが集中すると急激な円安、売りが集中すると急激な円高が起きることがあります。また、損切り(ストップロス)の連鎖が相場を一方向に押し進めるケースもあります。
A. 重要なのは「想定レートの明文化」「為替が1円動いた場合の影響額を試算」「価格転嫁や契約条件の整備」等です。為替が動いた時に粗利や資金繰りがどう変わるかを“見える化”することで、リスクを管理しやすくなります。



