
目次
はじめに
「物価が上がる」「金利が上がる」「国債の利回りが上がる」──
ニュースで似たような言葉を聞く機会が増えています。
しかし、これらの“上がる”が何を意味するのかを、明確に理解している人は多くありません。
実は、インフレ(物価上昇)と国債、そして金利の動きは結びついています。
インフレが進めば、お金の価値が下がり、投資家は「より高い利回り」を求めるようになります。
結果として、国債の利回りが上がり、金利全体が上昇する──という流れが起きるといわれています。
そこで、この記事では、
- インフレと国債の関係
- 金利が動くメカニズム
- 企業経営における影響と実務的な備え
を、できるだけ平易な言葉で整理していきます。

1. インフレとは何か──お金の価値が下がるということ
インフレとは、「物の値段(物価)が上がる状態」のことです。
たとえば、昨年100円だったパンが今年は120円になっていれば、物価は上昇しています。
一方で、私たちが持っているお金の“力”は弱まります。
100円で買えたものが買えなくなるわけですから、お金の価値が下がるということです。
この「お金の価値の低下」が、国債や金利の動きに大きく関わってきます。
2. インフレが国債に与える影響
(1)固定利息の国債は実質的に目減りする
国債の多くは、あらかじめ決められた金利(利息)で発行されます。
たとえば、年1%の利息を支払う10年国債を持っていたとしても、
物価が2%ずつ上がっていけば、**実質的な利回りはマイナス1%**という計算になります。
つまり、名目上は利息を受け取っていても、
物価の上昇によって「お金の価値」が下がる分、実質的なもうけは減ってしまうのです。
これが、インフレ局面で“固定金利の国債が不利になりやすい”といわれる理由です。
(2)投資家はより高い金利を求めるようになる
物価が上がると、お金の価値が下がります。
たとえば、今100円で買えたものが、将来は120円になると分かっている場合、
投資家は「それならもっと利息をもらわないと割に合わない」と考えます。
その結果、新しく発行される国債には、より高い金利が求められるようになります。
この動きが、国債利回りの上昇(=金利上昇)です。
3. 国債利回りが上がると起きること
国債の利回りが上がると、次のような変化が起こります。
- 既に発行されている国債の価格が下がる
- 新しく発行される国債は高い利息で募集される
- 金利全体(住宅ローン・企業融資など)にも上昇圧力がかかる
この「①価格が下がる・②利息が上がる」は、国債市場の基本構造とされています。
💡 具体的にイメージしてみましょう
額面10万円の国債に対して、年1,000円の利息がつくとします。
最初に10万円で買えば、利回りは1%。
ところが、新しい国債が「2%の利息」で発行されたら、
古い1%の国債は魅力がなくなり、買い手が減ります。
そのため価格が下がり、たとえば9万5,000円でしか売れなくなる、というわけです。
つまり、金利が上がると国債価格は下がるという逆相関関係が成り立ちます。

4. 日銀の役割──金融政策とインフレ抑制
インフレが進むと、中央銀行(日本銀行)は金利を引き上げることで物価の上昇を抑えようとします。
これは、企業や個人が借入を控え、需要を落ち着かせる狙いがあります。
日本では長らく「超低金利政策」が続いてきましたが、
2024年以降は、物価上昇と賃金上昇の動きを受けて、
日銀が金利の“正常化”を段階的に進めている状況です。
2025年現在も、短期金利を低金利としながら、
長期金利(10年国債利回り)は市場の動きをある程度反映させる形で調整されています。
これは、急激な金利上昇によって国債市場が混乱しないようにするためのバランス政策です。
5. インフレ局面における企業経営への影響
インフレと金利上昇は、企業の財務や資金繰りにも直接的な影響を及ぼします。
ここでは3つの観点から整理します。
(1)借入コストの上昇
金利が上がると、金融機関からの借入コストも上昇します。
特に固定金利ではなく変動金利で借りている場合、返済額が増えるリスクがあります。
また、新たに融資を受ける際のハードルも上がるため、
設備投資や新規事業への着手が慎重になる傾向が強まります。
(2)資金繰りへの影響
金利が上昇すると、企業の支払利息が増えるだけでなく、
仕入価格や人件費なども物価上昇で増加します。
つまり、キャッシュアウト(現金流出)が多くなる二重の負担が生じます。
インフレ期には、日々の資金繰り表を細かく確認し、
「手元資金どのような推移になるのか」を冷静に把握することが欠かせません。
(3)販売価格の調整と取引先対応
インフレは仕入コストの上昇を通じて利益を圧迫します。
一方で、販売価格を上げすぎれば取引先の理解が得られないというジレンマもあります。
したがって、価格転嫁のタイミングや説明の仕方が経営課題になります。
インフレ局面では、「金利」だけでなく「価格戦略」もセットで考えることが重要です。
6. インフレ時に注目すべき国債の種類
インフレが続く局面で注目されるのが、「インフレ連動国債(物価連動国債)」です。
これは、物価上昇に応じて元本や利息が自動的に増える仕組みの国債です。
たとえば、物価が2%上昇すれば、受け取る利息も2%増えるように設計されています。
投資家にとっては、物価上昇による“実質的な目減り”を防ぐことができるため、
インフレリスクをヘッジする手段として利用されています。
ただし、価格変動リスクや途中売却時の損失可能性もあるため、
長期保有を前提とした運用が基本とされています。
7. 今後の見通し──「緩やかな金利上昇」への備えを
日本経済は、これまで長くデフレ(物価が下がる状態)に悩まされてきました。
しかし、ここ数年は賃上げやエネルギー価格上昇などを背景に、
持続的なインフレ率2%達成が現実味を帯びてきています。
それに伴い、日銀の金融政策もゆるやかに転換し、
長期金利は少しずつ上昇傾向にあるといわれています。
経営者が今意識すべきは、
「急激な変化」ではなく、「緩やかな金利上昇への構え」です。
たとえば、
- 借入状況に応じて借入金利が固定か変動かを見直す
- 将来の資金需要を踏まえ、早めの資金調達を検討する
- 資金繰り表を金利変動シナリオで試算する
といった具体的な対応策が有効です。

まとめ
インフレが進むと、お金の価値が下がり、投資家はより高い利回りを求めます。
その結果、国債利回りが上昇し、金利全体にも波及していきます。
国債の利回りは、企業の借入金利や資金調達コストの“起点”です。
つまり、インフレの動きを読むことは、経営のリスク管理そのものといえます。
金利の動きは、経営にとって“これから起きる変化のサイン”です。
インフレ局面では、国債市場を正しく読むことが、資金計画の精度を高め、経営の安定につながります。
免責事項
本記事は、2025年11月時点の公表情報および日本銀行・財務省・内閣府の資料を参考に執筆しています。
内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、投資・融資・経営判断の結果を保証するものではありません。
また、経済・金融に関する見解は専門家によって異なる場合があります。
最終的な判断は、最新の公式情報および専門家の助言に基づいて行ってください。
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