
目次
はじめに
「利益が出ているのに資金が足りない」
この矛盾の正体こそが、中小企業経営におけるリスクである、
「資金ショート」
です。
そこで、このリスクを未然に防ぎ、金融機関との信頼関係を築くための武器が
「資金繰り表」
です。
資金繰り表は、企業の財務実務における“体温計”とも言える存在です。
金融機関は貸借対照表や損益計算書といった決算書だけではなく、資金の流れを見通す資金繰り表も重視しています。
今回は、金融機関が、
なぜ資金繰り表を重視するのか、
資金繰り表のどこを見ているのか、
そして、
実務上どう作成し活用すべきか
を、財務の現場で培った知見をもとにご紹介します。
また、経済報道やビジネス特集の中で「企業の資金繰り」に触れるメディア関係者の方々にも、
現場視点からの解像度を高めていただける内容になっています。
内容
■ 資金繰り表とは──キャッシュフローを“見える化”する表
資金繰り表は、事業資金の入出金を時系列で整理し、現在、そして、未来の資金残高を管理・予測する表です。
単に事業資金の出入りを記録するだけでなく、
「どのタイミングで資金が不足するか」
「その時点で、どれだけの余力があるか」
を可視化します。
例えば、売上が月末締め・翌月末入金であれば、
売上計上から実際の入金までにはタイムラグがあります。
一方で、仕入れや人件費、地代家賃、税金等の支払いは、
売上よりも先に発生する事が多いです。
こうした、入金より出金の方が先行するという事が続くと、
黒字であっても資金が底をつく――いわゆる「黒字倒産」のリスクが高まります。
そこで、資金繰り表はそのリスクを数値で捉え、対策を講じるための重要な事業資金管理ツールです。
■ 銀行が資金繰り表で見ている5つの要点
金融機関が融資の可否を判断するにあたり、資金繰り表を次のような視点で目を通している場合があります。
-
資金残高の推移
→ 3ヶ月、6ヶ月先まで資金が枯渇しないか。資金ショートの兆候がないか。 -
入出金の根拠
→ 売上入金の見込みが、過去実績や契約に基づいた現実的な数字かどうか。 -
借入金返済の余力
→ 元利金返済やリース料が過不足なく支払えるだけのキャッシュが確保されているか。 -
税金・社会保険料等の支払管理
→ 納期限を遵守した資金計画になっているか。滞納等の兆候がないか。 -
資金管理体制の整備状況
→ 経営者自身が資金繰りを把握し、更新・改善が適宜おこなわれているのか。
金融機関は、数字そのものだけでなく、「実態との整合性」「経営者の目線」等に注目しています。
形式的に提出された資金繰り表よりも、実際の経営で活用された“生きた資料”に信頼を置くのです。
■ 実務で使える資金繰り表の基本構成
資金繰り表のフォーマットは、特別なソフトを用いたものでなくても構いません。
ExcelやGoogleスプレッドシートで十分対応できます。
一般的な構成は以下の通りです:
【横軸】月または週単位の時系列
【縦軸】各入出金項目(売上、借入金、人件費、仕入、税金、各種支払等)
イメージとしては、
月初(週初)の現預金残高に、当月(当週)の入金を加え、支出を差し引くことで、翌月(翌週)の残高を順次算出していきます。
-
期首残高(手元資金)
-
入金(売上、借入金、補助金等)
-
出金(人件費、借入金、外注費、経費、税金、各種支払等)
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期末残高(資金残高)
大切なのは、「実績」と「予測」の両方を並列で記載することです。
予測は売上予想や取引予定に基づき、現実的な範囲で記載します。
この表を毎月更新し、金融機関提出用と社内共有用の両面で活用することが理想的です。
【資金繰り表サンプル(1ヶ月分/月次)】
資金繰り表は、ひな型はいくつもあるので、自社に合ったものを活用頂く方が良いです。
参考までに、サンプルをご紹介します。
項目 | 金額(円) | 備考 |
---|---|---|
① 期首現金残高 | 2,000,000 | 12月末時点の手元資金 |
【入金】 | ||
売上入金 | 3,000,000 | 12月売上の入金 |
借入金(短期) | 1,000,000 | 1月中旬実行 |
その他入金 | 100,000 | 補助金など |
② 入金合計 | 4,100,000 | |
【出金】 | ||
仕入支払 | 1,200,000 | 月末支払い分 |
人件費 | 1,000,000 | 25日支払予定 |
家賃・水道光熱費 | 300,000 | 固定費 |
借入金返済 | 200,000 | 元利金返済 |
その他経費 | 400,000 | 広告・交通費など |
③ 出金合計 | 3,100,000 | |
④ 期末現金残高(①+②−③) | 3,000,000 | 翌月に繰越予定資金 |
■ 活用事例:資金繰り表で経営が変わった実例
ある会社では、数ヶ月に一度資金繰りが厳しくなることが続いていました。
この原因は、請求・入金のタイミングと支払スケジュールのズレによるものでした。
そこで、資金繰り表の導入後、この原因が明確になり、
**「仕入の支払サイトの見直し(後倒し)」や「売上請求タイミングの前倒し」**
が行われ、事業資金が安定的に確保されるようになりました。
このように、資金繰り表は“融資を受けるための資料”ではなく、
経営を改善するものでもあり、
また、
金融機関とより良いコミュニケーションを築くためのツールになりうるのです。
まとめ
資金繰り表は、事業資金の入出金を時系列で整理し、現在から将来にかけての資金残高を予測・管理するための実務ツールです。
金融機関が重視しているのは、単なる形式ではなく、数字の裏付けや現実との整合性、そして経営者自身の資金への目線です。
会社にとっても、資金繰りを正確に把握することは、安定経営や成長戦略の基盤となります。
資金繰り表の精度を高め、積極的に経営に活用していきましょう。