江東区の税理士     経営アドバイザー

佐藤充宏 江東区で税理士事務所・ファイナンスコンサルティング会社を経営しています。

原油・天然ガス・金属が“ドル建て”で取引される本当の理由

原油・天然ガス・金属が“ドル建て”で取引される本当の理由

はじめに

エネルギー価格や資源価格のニュースを見ると、

「原油価格は1バレル〇〇ドル」
「天然ガス価格が上昇」
「銅・アルミ・金などの国際価格」
といった表現が出てくることがあります。

そして、それらの価格は多くの場合「米ドル建て」で表示されています。

経営者や経理担当者の方からは、次のような疑問を持たれることがあります。

・なぜ日本円ではなくドルなのか
・円安になると、なぜエネルギーや原材料費が急に上がるのか
・ドル建てと自社の仕入や利益はどう結びついているのか

本記事では、
**「なぜ原油・天然ガス・金属はドル建てで取引されるのか」**という本質的な疑問について、
歴史・国際金融・実務の3つの視点から、わかりやすく解説していきます。


1. そもそも「ドル建て取引」とは何か

まず「ドル建てで取引されている」とはどういう意味か、整理しておきます。

たとえば、

・原油:1バレル=80ドル
・LNG:〇〇ドル/MMBtu
・銅:1トン=〇〇ドル

というように、国際的な売買価格がすべて米ドルで表示・決済されているという意味です。

日本の会社が実際に支払うときは円に換算しますが、
その「元になる価格」はドルで決まっています。

つまり、

ドル建て価格 × 為替レート(ドル円)= 実際の仕入額(円)

という構造になっています。

このため、

・円安 → 同じドル価格でも円の支払額は増える
・円高 → 同じドル価格でも円の支払額は減る

という現象が必ず起こります。


2. なぜ米ドルが「世界標準通貨」になったのか

原油や金属がドル建てになっている最大の理由は、
**「米ドルが世界の基軸通貨だから」**です。

では、なぜ米ドルが基軸通貨になったのでしょうか。

第二次世界大戦後の国際通貨体制

第二次世界大戦後、世界経済は大きな転換点を迎えました。

当時、

・工業力
・軍事力
・金融力

のすべてで圧倒的な力を持っていたのがアメリカでした。

この流れの中で1944年に「ブレトン・ウッズ体制」が構築され、

・米ドルと金を固定
・各国通貨はドルに連動

する仕組みが作られ、「金・ドル本位制」と呼ばれることもありました。

これにより、米ドルが事実上「世界の基準通貨」になったのです。

金本位制終了後もドルが使われ続けた理由

1971年に金本位制は終了しましたが、それでもドルの地位は揺らぎませんでした。

理由は次のとおりです。

・アメリカ経済の規模が依然として世界最大
・ドルは流通量が多く、すぐに換金できる
・安全性と信用力が高い
・国際金融市場のインフラがすべてドル中心で構築されている

結果として、
「一番便利で、安心して使える通貨=米ドル」
という地位が確立したまま現在に至っています。


3. 原油がドル建てになった「決定的な理由」

原油が本格的にドル建てで固定された背景には、「オイルマネー」とアメリカの戦略があります。

中東産油国とアメリカの合意

1970年代頃に、アメリカはサウジアラビアをはじめとする中東産油国と次のような関係を築きました。

・原油取引の決済通貨はすべて米ドルとする
・その見返りとして、アメリカは中東の安全保障を支援する

この合意により、

「原油=ドルで買うもの」

という国際ルールがほぼ固定化されたといわれています。

なぜ原油はドルでないと困るのか

仮に原油が円建て・ユーロ建て・人民元建てなどでバラバラに取引された場合、次の問題が発生します。

・為替リスクが複雑化
・価格比較が難しくなる
・決済コストが増える
・市場の流動性が下がる

その点、ドル一択にすることで、

・世界中で同じ価格基準が使える
・いつでも売買できる
・価格の透明性が高い

という利便性が生まれました。


4. 天然ガス・金属もドル建てになった理由

原油だけでなく、天然ガス・金属・穀物などもほぼすべてドル建てです。

これもイメージは同じです。

① 国際市場がドル中心で構築されている

・ロンドン金属取引所(LME)
・ニューヨーク商品取引所(NYMEX)
・シカゴ商品取引所(CME)

これら世界主要商品市場は、ドル決済を前提として作られています。

そのため、

「市場に参加する=ドルで取引する」

という仕組みが自然に定着していきました。

② ドルはどの国でも「受け取って困らない通貨」

資源国から見た場合も、ドル建ては極めて合理的です。

・受け取ったドルはすぐに使える
・どこの国の通貨にも交換しやすい
・外貨準備として保有しても価値が安定している

つまり、
「売る側・買う側の双方にとって便利な通貨がドル」
という構造が、現在のドル建て取引を支えています。


5. 「ドル建て」と「円安」の関係

ここからが、会社経営・経理実務と直接関係する重要なポイントです。

原油・天然ガス・金属がドル建てである以上、
円安は自動的にコスト増に直結します。

たとえば、

・原油価格:1バレル=80ドル
・為替レート:
 1ドル=100円 → 8,000円
 1ドル=150円 → 12,000円

この場合、ドル価格が全く同じでも、円安だけで仕入額は1.5倍になるのです。

これは、

・電気料金
・ガス料金
・ガソリン代
・物流費
・原材料費

など、ほぼすべてのコストに波及していきます。


6. 輸入していない会社も「ドル建て」の影響を受ける理由

「うちは輸入していないから関係ない」と思われがちですが、実務ではそう単純ではありません。

次のような“間接的なドル建て”が存在します。

・仕入先が輸入原材料を使用している
・物流会社が燃料費高騰分を運賃に転嫁
・建設資材や設備機器に輸入部材が含まれる

このように、

ドル建て → 円安の場合 → コスト増 → 取引価格への転嫁

という流れは、業種を問わず広く波及しています。


7. ドル建て取引が会社の資金繰りに与える影響

ドル建て取引は、単なる価格問題にとどまりません。
資金繰りにも次のような影響を与えます。

・仕入額増加 → 運転資金の増加
・在庫金額の膨張 → 借入金依存度の上昇
・為替差損 → 決算利益の減少
・急激な円安 → 資金繰り悪化リスクの上昇

特に中小企業の場合、

「円安で売上は出ているのに、支払いが増えて手元のお金が減ってしまう」

という事態が起こる場合があります。


8. 経営者・経理担当者が押さえるべき実務ポイント

ドル建て取引の本質を理解したうえで、実務では次の視点が重要になります。

① 想定為替レートを必ず設定する

見積・予算・中期計画には、

「1ドル=〇〇円で計算しているか」

を必ず明記しましょう。

為替前提が曖昧なままでは、原価管理は正確にできません。

② 為替が1円動いたときの影響額を把握する

・1円の円安で仕入はいくら増えるのか
・利益は何円減るのか

この「影響額の見える化」は、資金繰り管理の精度を大きく高めます。

③ 金融機関と為替情報を共有する

為替リスクが大きい会社ほど、

・為替動向
・金利動向
・資金調達環境

について、金融機関と定期的に情報共有しておくことが重要です。


まとめ

原油・天然ガス・金属がドル建てで取引されている主な理由は、

・米ドルが世界の基軸通貨である
・国際市場がドルを前提に構築されている
・売り手・買い手双方にとって最も便利な通貨がドルである

という、歴史と国際金融構造に根ざしたものといわれています。

そして、このドル建て構造は、

・円安 → コスト増
・円高 → コスト減

という形で、多くの会社に直接・間接的な影響を及ぼしています。

経営者・経理担当者の方は、

・為替
・エネルギー価格
・原材料価格

を切り離して考えるのではなく、**「多くの経済的取引がドル建てと円相場でつながっている」**という視点で数字を見ることが、実務上重要になります。


【免責事項】

本記事は、執筆時点における一般的な国際金融・商品市場の仕組みを解説するものであり、特定の投資判断、為替取引、資金運用、経営判断を推奨または保証するものではありません。
実際の取引・契約・資金調達・価格決定等を行う際には、金融機関・税理士・公認会計士・専門家等へ事前にご相談ください。
本記事の内容を利用したことにより生じたいかなる損害についても責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

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Q. なぜ原油・天然ガス・金属はドル建てで取引されるのですか?

A. 世界の金融市場で米ドルが基軸通貨であり、価値が安定しているためです。どの国でも同じ基準で価格を比較でき、取引の透明性と信頼性が保たれます。

Q. ドル建て取引だと日本企業にどんな影響がありますか?

A. 円安になると同じ量を輸入するために必要な円の金額が増え、仕入価格や燃料費・電気料金などが上昇します。逆に円高ではコストが下がりやすくなります。

Q. すべての国際商品がドル建てなのですか?

A. 原油・天然ガス・金属など主要資源はほぼドル建てですが、一部ではユーロ建て・人民元建てなども増えています。ただし市場の主流は依然として米ドルです。

Q. ドル建て価格が上がると日本の物価も上がるのですか?

A. はい。原油・LNG・金属などは製造業・物流・電力・ガソリン価格に波及するため、ドル建て価格または円安の進行は日本の物価に影響します。

記事執筆者

税理士 佐藤充宏
東京都江東区で税理士事務所及びファイナンスコンサルティング会社を経営している佐藤充宏と申します。

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