
目次
はじめに
会社が金融機関と取引を開始するときに必ず必要になるものの一つが「届出印」です。
口座開設や融資契約、各種手続きにおいて、金融機関は会社の届出印を照合し、本人確認・会社確認の手段としています。
しかし実務の現場では、
「実印と届出印の違いは?」
「インターネット銀行では印鑑が不要になるのか?」
「経理担当者が印鑑を押すときのリスクは?」
といった疑問や課題が少なくありません。
本記事では、金融機関への会社の届出印の基本から実務上の注意点、さらにリアル店舗のある金融機関とインターネット銀行の違いについて整理し、経営者・経理担当者が押さえておくべきポイントを解説します。

金融機関への届出印とは?
届出印とは、金融機関に届け出ている会社印鑑のことです。
通常、法人であれば金融機関に「届出印」を提出します。
届出印として法務局に届け出ている実印をそのまま使用する場合もありますが、リスク管理等のために別途「銀行印」を作成して届け出る会社も多く見られます。
いずれの場合も、口座開設や融資契約の際には、この届出印が本人確認・意思確認の基準となります。
したがって、印影がわずかに違っただけでも「不一致」と判断され、手続きが止まるケースもあります。
届出印と会社の印鑑の違い
会社には複数の印鑑があります。代表的なものを整理します。
- 代表者印(実印)
法務局に届け出ている会社の実印。登記簿謄本とあわせて会社の真正を示す。 - 銀行印(届出印)
金融機関に届け出るための印鑑。 代表者印をそのまま使う場合もあれば、別に金融機関取引用の印鑑を作成する場合もある。 - 角印
契約書や請求書に使うことが多いが、法的効力は代表者印に比べ限定的。
金融機関では、代表者印と銀行印を分けて管理する会社も少なくありません。
理由は、代表者印を安易に使うことで紛失や悪用のリスクが高まる等のためです。
届出印をめぐる実務での注意点
1. 印影の一致確認は厳格
金融機関は印影照合を厳密に行います。
朱肉の濃さや押し方の違いでもエラーになる場合があります。
特に新しい印鑑を作ったときや、印面の摩耗が進んだとき等は注意が必要です。
2. 経理担当者が押す場合のリスク
実務では、経理担当者が振込依頼書や小切手の発行で届出印を使用するケースがありますが、
代表者の意思確認を経ずに押印してしまうと、内部統制上のリスク等が高まるため、
印鑑管理規程等を定めて、事例毎の運用方法を明示しておく必要があります。
3. 紛失時の対応
届出印を紛失した場合、速やかに金融機関へ届け出て差替え手続を行う必要があります。
届出印の悪用を防ぐために、金融機関によっては口座の一時停止措置を取るケースもあります。
届出印の変更手続き
金融機関への届出印の変更が必要となる場合として、届出印として今後使用する印鑑の作り直しを行ったケース等があります。
届出印変更手続きの流れはおおむね次のとおりです。
- 代表者印の印鑑証明書を取得
- 新しい印鑑を金融機関へ提出
- 所定の変更届に代表者が記名押印
- 登記事項証明書や本人確認資料を添付
なお、金融機関によって必要書類は異なりますので、詳細は取引金融機関に確認しましょう。
リアル店舗のある金融機関とインターネット銀行の違いの概要
項目 | リアル店舗型金融機関 | インターネット銀行 |
---|---|---|
届出印 | 必須。代表者印または銀行印を登録 | 不要な場合が多い(法人は届出が必要な場合あり) |
本人確認 | 届出印照合+本人確認書類 | ID・パスワード+ワンタイムパスワード |
手続き | 店舗での書類提出が中心 | オンラインで完結可能 |
紛失時対応 | 店舗での再登録が必要 | 電子認証で再設定可能 |
信頼性 | 長年の実績があり安心感がある | 迅速・低コストだが印鑑文化が薄い |
リアル店舗型では、依然として届出印が重視されます。
一方、インターネット銀行は印鑑レス化が進んでおり、ID・パスワードによる電子認証が基本です。
ただし法人の場合、完全に印鑑レスというわけではなく、届出印を求められ、また、金融機関によって手続きが異なる場合がありますので、個別に確認しましょう。
経営者・経理担当者が押さえるべきポイント
- 届出印は代表者印と銀行印を分け、リスクを分散させる
- 印鑑の管理体制を構築し、権限のない押印を防止すること等により、資金面のトラブルや信用リスクを最小化する
- 紛失時はすぐに金融機関に連絡し、悪用リスクを防止する
- インターネット銀行利用時は印鑑の有無を確認し、手続きの違いを理解する
- 将来的な印鑑レス化も視野に入れ、電子認証やワンタイムパスワードの活用を検討する
FAQ(よくある質問)
Q1. 届出印は必ず代表者印でなければいけませんか?
A1. 必須ではありません。銀行印専用の印鑑を作成して届け出る会社も多いです。 ただし、融資契約など重要な取引では代表者印を求められることがあります。
Q2. ネット銀行では印鑑が不要と聞きましたが本当ですか?
A2. 個人や一部の法人では印鑑不要で手続きできます。 ただし法人利用では、代表者印を届け出るケースも残っていますので、金融機関ごとに確認が必要です。
Q3. 届出印をなくした場合、どれくらいの期間で再発行できますか?
A3. 金融機関によって異なります。
紛失の場合は、至急金融機関に連絡し、再発行手続きや再発行までの取り扱い等を事前に確認しましょう。
Q4. 電子署名を導入した場合、届出印は不要になりますか?
A5. 電子署名で代替できる取引も増えていますが、現状では多くの金融機関で届出印も併用されていますが、金融機関によって取り扱いが異なる部分があるので、詳細は金融機関に確認しましょう。

まとめ
金融機関への届出印は、会社の意思を示す「証明」の役割を担っています。
実印との違いや管理方法を誤ると、取引が滞ったり、不正利用のリスクにつながるため注意が必要です。
また、リアル店舗のある金融機関では届出印が引き続き必須である一方、インターネット銀行では印鑑レス化が進んでいます。
経営者・経理担当者は、自社の取引金融機関のルールを理解し、リスクを踏まえて管理することが求められます。
届出印の取り扱いは「形式的な事務作業」に見えて、実は会社の信頼性を守る重要な業務です。
正しく理解し、適切に管理・運用しましょう。