
目次
はじめに
「国債は安全な投資」とよく言われます。
しかし、ひと口に“国債”といっても、個人が買う国債と金融機関が保有する国債とでは、目的も仕組みも大きく異なります。
私たち個人が銀行窓口やネット証券で購入する国債と、金融機関が保有する国債は、同じ“国の借用証書”であっても、役割・運用目的・リスクの捉え方がまったく違うのです。
この記事では、国債を「誰が」「どのような目的で」保有しているのかを整理し、
個人投資家と金融機関の視点の違いをわかりやすく解説します。

国債とは──「国が発行する借用証書」
まず前提として、国債とは「国が資金を調達するために発行する債券」です。
国民や金融機関などからお金を借り、その代わりに「一定の利息を支払う」「満期になったら元本を返す」という約束をします。
企業でいえば、**社債(会社の借金)**にあたります。
ただし、国債は「国の信用」を背景としているため、民間の債券よりも安全性が高いとされています。
日本の国債の大半は誰が持っているのか?
財務省の統計(令和6年度末時点)によると、日本の国債の保有者は次のように分類されています。
- 日本銀行:約50%前後
- 銀行・信用金庫などの金融機関:約14%
- 保険会社:約17%
- 年金基金・投資信託など:約10%
- 個人投資家・その他:約9%
つまり、個人が直接保有する国債は、全体のごく一部にすぎません。
では、なぜ金融機関と個人とで、保有の目的がこれほど違うのでしょうか。
個人が買う国債──「資産を守るための安全運用」
個人が購入する国債は、主に「個人向け国債」と呼ばれる商品です。
銀行や郵便局、証券会社などで販売されており、3年・5年・10年の3種類が代表的です。
特徴①:元本保証で安全性が高い
個人向け国債の最大の特徴は、「元本が保証されている」ことです。
たとえ金利が下がっても、償還時には必ず元本(投資額)が返ってきます。
日本国が破綻しない限り、元本が減ることはありません。
特徴②:途中解約(中途換金)も可能(ただし一定の条件あり)
個人向け国債は、発行から1年経過すれば途中解約も可能です。
解約時には直前2回分の利息が差し引かれる仕組みですが、預金より少し高い利回りを狙いながら、流動性もある程度確保できます。
特徴③:金利は「固定型」と「変動型」
- 固定金利型(3年・5年)
- 変動金利型(10年)
の2タイプがあります。
変動金利型は、市場金利(10年国債利回り)に応じて半年ごとに利率が見直されるため、将来の金利上昇にも対応可能です。
特徴④:個人の資産運用・分散投資としての位置づけ
個人にとって国債は、「リスクを抑えて資産を保全する」ための手段です。
株式や投資信託のように値動きが大きくなく、預金よりは高い金利を得られる点で、
**“守りの資産”**として位置づけられています。
金融機関が保有する国債──「資金運用とリスク管理の要」
一方で、銀行や保険会社、年金基金などの金融機関が保有する国債は、目的がまったく異なります。
彼らにとって国債は、運用資産であると同時に、リスク管理の手段でもあるのです。
特徴①:資金運用の柱としての国債
銀行は、預金者から預かったお金を融資や投資で運用しています。
しかし、すべてを企業融資に回すとリスクが高いため、
安全性の高い国債にも一部を投じて安定した利息収入を得ます。
これを「運用ポートフォリオの分散」と呼びます。
国債は市場で売買が容易で、資金の流動性も高いため、“安全資産”の代表格として扱われています。
特徴②:担保資産としての国債
金融機関は、日々の資金のやり取りや取引の際に、
「この取引は確実に履行します」という証拠として、国債を担保に差し出すことがあります。
たとえば、日本銀行との取引や、短期的に資金を融通し合う市場(コール市場)では、
国債は“信頼の証”として受け入れられています。
つまり、国債は「お金を借りるための保証書」のような役割も果たしているのです。
特徴③:金利変動リスクと評価損
ただし、金融機関が保有する国債には価格変動リスクがあります。
金利が上昇すると、既発行の国債の価格は下がるため、
大量に保有していると「評価損」が発生する可能性があります。
このように、個人にとっての“安全資産”が、金融機関にとっては“リスク管理対象”でもあるという点が大きな違いです。
個人向け国債と金融機関保有国債の比較
| 観点 | 個人向け国債 | 金融機関が保有する国債 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 資産の保全・安定運用 | 運用収益・リスク管理・担保資産 |
| 保有期間 | 中長期(3年・5年・10年) | 期間を分散(短期~超長期) |
| 売買の頻度 | ほとんどなし(償還まで保有) | 市場で頻繁に売買・担保利用 |
| リスク | 低い(元本保証) | 金利変動による評価損リスク |
| 金利タイプ | 固定・変動 | 市場金利に連動 |
| 主な保有者 | 個人投資家 | 金融機関・保険会社・年金基金など |
「同じ国債」でも立場が違えば意味が変わる
個人が国債を買うときは、「元本を守りたい」「安全に運用したい」という目的が中心です。
一方で、金融機関は「資金を効率的に回す」「リスクを分散する」という目的で国債を活用しています。
つまり、同じ“国の借金”でも──
個人にとっては“守りの資産”、金融機関にとっては“資金運用の手段”という役割の違いがあるのです。

まとめ
国債は「国が発行する債券」という共通の形を持ちながら、
保有者によって意味も使い方も大きく変わります。
個人にとっては、安定した資産運用の手段。
金融機関にとっては、資金運用・リスク管理・担保資産という多面的な役割。
国債の仕組みを理解することで、金利や経済の動き、
そして“お金の流れ”の全体像がより見えてきます。
免責事項
本記事は、2025年10月時点の公表情報および財務省・日本銀行・内閣府などの資料を参考に執筆しています。
内容は一般的な情報提供を目的としており、投資・融資・経営判断の結果を保証するものではありません。
また、本記事で取り上げた経済・財政に関する考え方(例:「個人向け国債」や「金融機関保有国債」の位置づけなど)は、経済学上の前提や分析の枠組みによって専門家の見解や解釈が異なる場合があります。
最終的な判断は、最新の公式情報および専門家の助言に基づいて行ってください。
実務で役立つ関連記事
・国債とは何か──日本の財政と経済を支える“借金”の正体
・政府の借金は誰の資産か?国債発行の仕組みをわかりやすく解説
・経営者・経理担当者の方むけ:短期プライムレートと長期プライムレートの違い──金利の基準をおさえましょう




